シリーズ『いっそ鯖定食』・第3回

なのにあなたはUFOを見たの

なのにあなたはUFOを見たの

 夜中にUFOにさらわれるんじゃないかと不安で眠れなくなる。そんな子どもだった。

 裏をかえせばそれだけ宇宙人やUFOに興味があった。十代はその手の本を読みあさった。

 でも八〇年代に入り、テレビでひんぱんにUFO特番をやるようになると、急に熱がさめてしまった。

「宇宙人がアメリカの基地に監禁されている!」

「アメリカ政府は宇宙人と密約を交わしている!」

 当時はそんな陰謀論が流行っていた。

 檻の向こう、ひざをかかえてうずくまる宇宙人。

 役人と事務テーブルをはさんですわり、

「じゃ、そういうことにしときましょか」

 契約書にサインする宇宙人。

 そんな風景が目に浮かび、興ざめしたのだ。宇宙人というと、僕はもっと人間をはるかに超えた神サマみたいなのを想像していた。またそうであってほしかった。

 いまYoutubeを検索すると、UFOの動画が大量に出てくる。インチキだ、いや本物だ、昔はそうやって考える楽しみもあったが、いまは見分けがつかないCGを素人でも簡単に作れてしまう。つまらない時代になった。

 宇宙人がUFOに乗って地球にきているという話、いまではかなり眉唾だと思っている。世界中の科学者がアンテナを五十年も空に向けているのに、地球外生命の痕跡はいまだに発見されていない。

 加えて最近はレアアース仮説というのがある。宇宙には生命があふれていると思われていたが、実はそうじゃないんじゃないかという説。まして文明がそう簡単に生まれるものではない。全宇宙をみてもかなりレア。地球をとっても、生命には三〇億年の歴史があるのに、ようやく人類が現れ、ロケットや電波を飛ばせるようになってたかが百年。そんな人類だっていつまで続くか怪しい。

 もし高度な文明をもった「宇宙人」がいるとしても、それは人間よりもむしろシロアリに近い生物なんじゃないかと勝手に想像している。シロアリは複雑な蟻塚をつくれるだけの社会性をもっている。文明がある程度以上進歩したら、人間がもっているような個性はかえってじゃまになるのではないか。

 どのみち夢のない話だ。

 なぜ僕がそんなに宇宙人にこだわるのかというと、宇宙で人類が唯一最高の知的生命体だと思いたくないからだろう。最高でこの程度なら幸先はよくない。いつも些細なことで悩み苦しみ、互いにいがみ合っている。

 ある日、カミさんがさわいでいた。

 夜空のはるか上空、ゆっくりと飛行するUFOを見たと。

 僕は無言でパソコンを開き、航路を検索した。そして、残念だがそれは上海に向かうFedEXの貨物機だろうと静かに言った。

 するとその場にいた友人のひとり、

「せっかくUFOを見たと喜んでるのに、夢がない」

 いや、夢がないのはそっちのほうだ。

 なんでもかんでもUFOだと言っていたら、本物を見たとき、気づけないじゃないか。

 

 

JUNICHIRO TAKANO